10月18日(土)

朝は曇り、午前八時には晴れてきた。

  けやき樹の葉の間より太陽のひかり透けるがまぶしきばかりに

  けやき樹のむかふは浄土かひむがしに広がるも明るき。空が見ゆる

  彼岸花は太陽への手向けひかりを背に供華は花咲く紅の花

『孟子』公孫丑章句30 孟子曰く、「矢人は豈函人より不仁ならんや。矢人は惟人を傷つけざらんことを恐れ、函人は惟人を傷つけんことを恐る。巫匠も亦然り。故に術は慎まざる可からざるなり。

  職業を選ぶにあたっては慎重に孟子かく言ふこれむずかしきこと

林和清『塚本邦雄の百首』

木犀のやみに思へば十年來われにも一人イヤーゴがゐる 『黄金律』

塚本得意のシェイクスピアネタの一つ。一首前にも「末期の姉がたまゆらデスデモナにに肖つおそろしからぬ他人のそら似」があるが、この歌のリアリティとは比べ物にならない。この歌を読んだ塚本の周囲の男性は、みな一瞬ヒヤッとしたのではないだろうか。

それが事実かどうかはさておき、作者は秋の夜、静かにその男の顔を思い浮かべる。イヤーゴの罠に陥ちたオセローと違い、作者にはその男の企みが見えている。その上で十年来、駆け引きのスリルを楽しんでいるかのようだ。芸術と現実、虚実皮膜の面白さ。

氣色ばんで向きなほれども春の夜のゴンチャロフとは飴の名なりし 『黄金律』

第二歌集の名歌「つねに冷えびえと鮮しモスクワ」を始め、この後にも「空井戸の蓋の鋼に露むすびまなこきらきらしゴルバチョフ」「つゆしらぬ閒に露しとどあからひく露國がずたずたの神無月」「空港伊丹キオスク脇の尾籠に正體もなきイズベスチア」など、塚本がロシアに寄せる関心は並々ならぬものがある。

テレビか誰かの会話か「ゴンチャロフ」と聞こえた瞬間ロシアに政変か、気色ばむ。しかしそれは神戸の洋菓子店の名前。何だ、気を抜いたとたんに、悪い予感が走る。今やその予感は現実のものとなった。

偏屈房主人
もともと偏屈ではありましたが、年を取るにつれていっそう偏屈の度が増したようで、新聞をひらいては腹を立て、テレビニュースを観ては憮然とし、スマートフォンのネットニュースにあきれかえる。だからといって何をするでもなくひとりぶつぶつ言うだけなのですが、これではただの偏屈じじいではないか。このコロナ禍時代にすることはないかと考えていたところ、まあ高邁なことができるわけもない。私には短歌しかなかったことにいまさらながら気づき、日付をもった短歌を作ってはどうだろうかと思いつきました。しばらくは二週間に一度くらいのペースで公開していこうと思っています。お読みいただければ幸い。お笑いくださればまたいっそうの喜びです。 2021年きさらぎ吉日

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