晴れましたね~伊豆稲取へ。
いぢめとは工場の誰彼を憎むともやるせなきものはかなきものを
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上下、左右さわさわさわと音立てて数千数万の赤蜻蛉飛ぶ
とんぼ二つは比翼のすがた初路の霊しづまらず。糸塚建てむ
『孟子』離婁章句上68-2 詩に云ふ、『商の孫子、其の麗億のみならず。上帝既に命じて、侯れ周に服せしむ。侯れ周に服せしむ、天命は常靡し。殷士膚敏なるも、京に祼将す』と。孔子曰く、『仁には衆を為す可からず』と。夫れ国君仁を好めば天下に敵無し。今や天下に敵無からんと欲して、而も仁を以てせず。是れ猶ほ熱を執りて而も以て濯せざるがごとし。詩に云ふ、『誰か能く熱を執るに、逝に以て濯せざらん』と。
孔子いふ仁あるものには誰も敵せず熱ありて水浴びせざらむ
川本千栄『土屋文明の百首』
方を劃す黄なる甍の幾百ぞ一団の釉熔けて沸ぎらむとす 『韮靑集』
<紫禁城は方形(四角形)に区切られており、黄色い甍は幾百あるだろうか。炎暑に瓦の釉薬が一かたまりになって熔けて、煮えたぎろうとしている。>
昭和十九年夏、文明は中国へやって来た。陸軍省報道部として五か月の視察の旅だった。まず北京に着き、旧王宮の紫禁城を描いている。巨大な城に連なる黄色い甍。黄色は皇帝の色だ。瓦の表面の釉薬が熔けて煮えたぎる、は誇張した表現だが、炎天下の暑さが実感として伝わる。景を大きく力強く捉え、一首全体に躍動感がある。青い空に黄色い甍が映え、色彩も豪華で鮮やかだ。
垢づける面にかがやく目の光民族の聡明を少年に見る 『韮靑集』
<垢で汚れた顔に輝く目の光がある。私は民族の聡明さをこの少年に見る。>
中国大陸の風景は桁外れに大きかった。この時は汽車が川の増水で停車。減水を待つ間、文明は列車を降りて、辺りにいた少年と虫を捕って遊んだ。貧しいからか入浴の習慣が違うからか、少年の顔は垢で汚れている。けれどもその目は聡明さを湛えて輝いている。彼の民族は聡明だ。民族名は述べておらず、中国人全体を指すと考えられる。文明は相手をそのままに見ることにより、中国の人々に対する、当時の日本人の意識を超えたのだ。