晴れ。
鳩の羽処々方々に落ちてゐるからすとの戦争に敗者となりし
雨降れば鳩の羽濡れ足に踏むよしよくやった鳩の敗北
鴉らの勝ちの遠吠え響くなりマンションの鳩消えたるかなや
『孟子』公孫丑章句下44 孟子 斉を去る。尹氏 人に語げて曰く、「王の以て湯・武為る可からざるを識らざれば、則ち是れ不明なり。其の不可なるを識りて然も且つ至らば、則ち是れ沢を干むるなり。千里にして王に見え、遇はざるが故に去る。三宿して而かる後、昼を出づるは、是れ何ぞ濡滞なるや。士は則ち玆に悦ばず」と。高子以て告ぐ。
孟子去るに斉の尹士がぐずぐず三晩も泊り昼に発つとは気に入らぬと言ふ
藤島秀憲『山崎方代の百首』
頭よりバケツをかむりバケツの穴の箇所捜しおる 『右左口』
明かりが差し込めば、そこに穴がある。実に効率的な穴の捜し方。だが、普通の人は、こんなことを短歌にしようと思わないし、よもや短歌になっても、読まされる人はたまったものじゃない。
だけど方代ならば短歌にしてしまうし、読んでも十分おもしろい。方代というキャラクターがトッピングされるからだ。キャラで得している歌なのである。
しかもこの歌、三句がない。<頭より/バケツをかむり/〇〇〇〇〇/バケツの穴の/箇所捜しおる>、ときに方代は不思議なことをしてのける。
赤き色の落葉をくべてこごえたる前と後ろをあぶりていたり 『右左口』
今では懐かしい存在になってしまった冬の風物詩「焚火」あたたまるのではなく「あぶりていたり」。「スルメイカ、か?」と笑って突っ込みを入れたくなるような動詞「あぶり」で焚火を満喫している様子を歌う。
このトボけた物言いが方代らしい。
結局、私は「方代の歌」を読んでいるのではなく、「方代」を読んでいると思う。作品から立ち上がってくる方代そのものに強く惹かれているから、何度も何度も繰り返し読めるわけだ。愛すべきキャラクター方代さん、十分に焚火で温まってください。