今日もよく晴れている。2025年最後の一日だ。
おそらく今年最後になる読書、奈倉有里『文化の脱走兵』を読み終えた。世界各地に無謀な暴力、戦争が蔓延している今こそ読むべき本だと思う。作者はロシアの文学大学を卒業している。ロシア文学の専門家である。詳しくは自分で読んでもらいたいが、楽しいのである。刺激的なのである。そして示唆が多く含まれている。希望がある。われもまた、狸に化して「脱走兵」になりたいものだが、足弱の老人にはどうだろうか。
一年の埃を落とす本棚から本があれこれ言おうと無視す
叩き掛け本の山から山へ限りもあらず膨大なる本
一年の汚れを落とし新しき年を迎へんよき年であれ
『孟子』縢文公章句60-5 昔者、禹洪水を抑めて、天下平らかなり。周公、夷狄を兼ね、猛獣を駆りて、百姓寧し。孔子、春秋を成して、乱臣・賊子懼る。詩に云ふ、『戎狄は是を膺ち、荊舒は是れ懲らす。則ち我に敢て承ること莫し』と。父を無みし君を無みするは、是れ周公の膺つ所なり。我も亦人心を正し邪説を息め、詖行を距ぎ淫辞を放ち、以て三聖者に承がんと欲す。豈弁を好まんや。予已むを得ざればなり。能く言ひて楊 墨を距ぐ者は、聖人の徒なり」と。
禹・周公・孔子の三聖人を継がむとすよく言ひて楊墨の徒を距ぐべし
川本千栄『土屋文明の百首』
新しき国興るさまをラヂオ伝ふ亡ぶるよりもあはれなるかな 『山谷集』
<新しい国の建国の様子をラジオが伝えている。それは国が亡ぶ様子よりもあわれである。>
昭和七年三月、日本は満州事変で軍事的に占領した、中国の東北部地域を「満州国」として独立させ、清朝最後の皇帝溥儀をその執政(のちに皇帝)とした。しかし独立国とは名ばかりで、事実上は日本の傀儡国家で植民地であった。当時のメディアである新聞やラジオが伝える「満州国」の成立を、国民の多くは熱狂的に迎えたが文明は違った。歴史に翻弄される人間の哀れさを感受し、この国の末路さえ予感するように歌っている。
木場すぎて荒き道路は踏み切りゆく貨物専用線又城東電車 『山谷集』
<木場を過ぎたのち、舗装されていない道路を踏み切って貨物専用線が通り、並行して城東電車が通る。>
昭和八年「城東区」より。昭和七年東京市は近隣の町村を合併し、全三十五区大東京市となった。昭和八年の「短歌研究」誌は「大東京競詠短歌」を特集し、文明は新設の城東区(現・江東区の一部)を担当した。見えた素材を感情を交えずに描く手法だが、道路を二本の線路とその車両が横切る状況を「踏み切りゆく」「又」と簡潔に表現し、「道路は」で道が線路を突っ切ていることも示す。表現の凝縮と細かい工夫も見逃せない。
今年(2025年)は、ここまでである。282ページ、よく頑張った。『孟子』も『土屋文明の百首』も、まだまだ終わらない。新年もおつきあいを願う。