12月31日(水)

今日もよく晴れている。2025年最後の一日だ。

おそらく今年最後になる読書、奈倉有里『文化の脱走兵』を読み終えた。世界各地に無謀な暴力、戦争が蔓延している今こそ読むべき本だと思う。作者はロシアの文学大学を卒業している。ロシア文学の専門家である。詳しくは自分で読んでもらいたいが、楽しいのである。刺激的なのである。そして示唆が多く含まれている。希望がある。われもまた、狸に化して「脱走兵」になりたいものだが、足弱の老人にはどうだろうか。

  一年の埃を落とす本棚から本があれこれ言おうと無視す

  叩き掛け本の山から山へ限りもあらず膨大なる本

  一年の汚れを落とし新しき年を迎へんよき年であれ

『孟子』縢文公章句60-5 昔者(むかし)(う)洪水を抑めて、天下平らかなり。周公、夷狄を兼ね、猛獣を駆りて、百姓寧し。孔子、春秋を成して、乱臣・賊子懼る。詩に云ふ、『戎狄(じゆうてき)は是を(う)ち、荊舒(けいじよ)は是れ懲らす。則ち我に敢て承ること莫し』と。父を無みし君を無みするは、是れ周公の膺つ所なり。我も亦人心を正し邪説を息め、詖行を距ぎ淫辞を放ち、以て三聖者に承がんと欲す。豈弁を好まんや。予已むを得ざればなり。能く言ひて楊 墨を距ぐ者は、聖人の徒なり」と。

  禹・周公・孔子の三聖人を継がむとすよく言ひて楊墨の徒を距ぐべし

川本千栄『土屋文明の百首』

新しき国興るさまをラヂオ伝ふ亡ぶるよりもあはれなるかな 『山谷集』

<新しい国の建国の様子をラジオが伝えている。それは国が亡ぶ様子よりもあわれである。>

昭和七年三月、日本は満州事変で軍事的に占領した、中国の東北部地域を「満州国」として独立させ、清朝最後の皇帝溥儀をその執政(のちに皇帝)とした。しかし独立国とは名ばかりで、事実上は日本の傀儡国家で植民地であった。当時のメディアである新聞やラジオが伝える「満州国」の成立を、国民の多くは熱狂的に迎えたが文明は違った。歴史に翻弄される人間の哀れさを感受し、この国の末路さえ予感するように歌っている。

木場すぎて荒き道路は踏み切りゆく貨物専用線又城東電車 『山谷集』

<木場を過ぎたのち、舗装されていない道路を踏み切って貨物専用線が通り、並行して城東電車が通る。>

昭和八年「城東区」より。昭和七年東京市は近隣の町村を合併し、全三十五区大東京市となった。昭和八年の「短歌研究」誌は「大東京競詠短歌」を特集し、文明は新設の城東区(現・江東区の一部)を担当した。見えた素材を感情を交えずに描く手法だが、道路を二本の線路とその車両が横切る状況を「踏み切りゆく」「又」と簡潔に表現し、「道路は」で道が線路を突っ切ていることも示す。表現の凝縮と細かい工夫も見逃せない。

今年(2025年)は、ここまでである。282ページ、よく頑張った。『孟子』も『土屋文明の百首』も、まだまだ終わらない。新年もおつきあいを願う。

偏屈房主人
もともと偏屈ではありましたが、年を取るにつれていっそう偏屈の度が増したようで、新聞をひらいては腹を立て、テレビニュースを観ては憮然とし、スマートフォンのネットニュースにあきれかえる。だからといって何をするでもなくひとりぶつぶつ言うだけなのですが、これではただの偏屈じじいではないか。このコロナ禍時代にすることはないかと考えていたところ、まあ高邁なことができるわけもない。私には短歌しかなかったことにいまさらながら気づき、日付をもった短歌を作ってはどうだろうかと思いつきました。しばらくは二週間に一度くらいのペースで公開していこうと思っています。お読みいただければ幸い。お笑いくださればまたいっそうの喜びです。 2021年きさらぎ吉日

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