いい天気だ。
熊に襲はれ死ぬもよからう一撃に倒してくれるものなればこそ
苦しみて死へおとろふるを畏れつつしかしなんともなすことあらず
だんだんに苦しみを経て死は来るいたしかたなしなるやうになれ
『孟子』公孫丑章句下35 陳臻問うて曰く、「前日、斉に於て、王兼金一百を餽りしも、而も受けず。宋に於ては七十鎰を餽られ、而して受く。薛に於ても五十鎰を餽られ、而して受く。前日の受けざるが是ならば、則ち今日の受くるは非なり。今日の受くるが是ならば、則ち前日の受けざるは非なり。夫子必ず一に此に居らん」と。
孟子先生のおこなひに問題ありしかも兼金送るに一にはあらず
藤島秀憲『山崎方代の百首』
寂しいが吾れにひとりの姉があるかなしきを打つこのときのまも 『方代』
八人兄弟姉妹の末っ子として生まれたが、生まれた時には既に五人が死亡、一人は里子に出ていた。
方代はエッセイ集『青じその花』に次のように書く。
まさかと思っていたのが生まれてきたのである。霜のきびしい朝であった。父は焼酎の酔にまかせて、生き放題死に放題の方代と命名してくれた。
二十三歳の時に母を、二十九歳のときに父を失った方代にとって、唯一の肉親であった姉が精神的にも物質的にも支えとなった。姉がいるから仕事もできる。「かなしき」は鑕、靴の修理をしていたときの歌だ。
とぼとぼと歩いてゆけば石垣の穴のすみれが歓喜をあげる 『方代』
小さな自然と語らい、友達になることが好きだった方代。元気なく歩いていても、すみれが迎えてくれる。そして励ましてくれる。石垣の穴という、決して恵まれた環境で育っているわけではないので、余計に仲間意識が強いのだろう。
センチメンタルであり、ロマンチストだった方代の特質が良く出た歌。
愛誦性があると評価されることの多い歌の中にあって、この歌はとりわけ愛誦性が高い。一読して覚えてしまうし、忘れ難い。