晴れているけど、なんだか寒い。やがて曇り、夜雨になる。
春眠不覚暁その前に眠たかりきよ鳥処々に啼けども
小灰蝶数頭われをめぐりをりわれは誰かの川の流れか
たましひはたましひに対峙すその隙を盗むかのように小灰蝶舞ふ
白つつじの美しき垣根たちまちに花はすがれて残滓あまた
あんなにも美しき花あまたつけ長き垣根に花残るあはれ
『論語』夏張一四 子游曰く、「喪は哀を致して止む。」
子游が言ふには喪はただに悲哀をつくすばかりなり
前川佐美雄『秀歌十二月』三月 吉井勇
君がため瀟湘湖南の少女らはわれと遊ばずなりにけるかな (歌集・酒ほがひ)
処女歌集『酒ほがひ』に出ている。(略)この歌は寛に師事する前の、いわば自分勝手の流儀で歌っていたころの作だということになる。興味のあるのは、勇の歌はその最初期から吉井勇調というか吉井勇風というか、ともかく彼独自の歌風歌調ができあがっていて、それが生涯いささかも変わらなかったということなのだ。これはまことにおどろくべきことだが、たとえばこの歌を読んでみるがよい。おのずから声を張りあげて朗々とうたいあげたくなるにちがいない。朗々と歌いあげているうちにわれ知らず恍惚となり、いつか一滴の涙がほおをつたうとうような、人間の悲しみともなげきともつかぬ、一種のふしぎな感情がどこからともなくにじみでてくることに気づく。(略)一口にいえば勇の歌は案外に万葉的である。万葉ぶりといってもよいが、同時代の斎藤茂吉や北原白秋にくらべて、柄が大きく豊かである。かつほがらかで堂々としている。