今日は朝から涼しく、このまま秋が続きそうだ。
車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』読了。かつて直木賞を獲得した時に読んで以来だ。あらためて凄い。底辺社会に入り込んだ主人公。ダメダメなんだけれども、それに徹しきれない。赤目(この地名が興味深い)からの帰り、なんどもまぐわった女性を失うことになる。その後もなんとか生存している。
戸を開けばまぶしき灯火の悪魔の部屋。夜のトイレのかくも怖ろし
くらがりを手にさぐりつつトイレへの廊下伝はる足弱なれば
便溜ればおのづと流るトイレなり坐して小便めんだうくさき
『孟子』梁恵王章句下23-3 楽正子、孟子に見えて曰く、「、君に告ぐ。君来り見んと為す。になる者有り、君をむ。君是を以て来ることを果たさざるなり」と。曰く、「行くも之をむる或り。は人の能くする所に非ざるなり。吾の魯侯に遇はざるは、天なり。臧氏の子、焉んぞ能く予をして遇はざらしめんや」と。
孟子がいふ魯公に会へぬは天命なり臧氏のような小人に非ず
林和清『塚本邦雄の百首』
輝くランボーきたり、はじめて晩餐の若鶏のみだりがはしき (『水銀傳説』)
塚本は『日本人霊歌』にて現代歌人協会賞を受賞し、歌壇に迎えられた。ついで寺山修司、岡井隆、春日井建、」山中千恵子らと同人誌「極」を創刊。前衛歌人として華々しい活躍がはじまる。
作風は日本の現実社会から遠ざかり、フランスの詩人ランボーとヴェルレーヌの男性同士の愛という塚本美学が一気に噴出するものへと変貌する。おそらく織り込み済みの路線変更であり、むしろ塚本の考える前衛短歌はこの地平を目指していたのかもしれない。
ただ伴奏者・岡井隆は「壮大な失敗作」と評した。
雉食へばましてしのばゆ再た娶りあかあかと冬も半裸のピカソ (『綠色研究』)
第五歌集『緑色研究』のタイトルは、オスカーワイルドのエッセイ「Pen,Pencil and Poison」の副題から取られている。塚本が偏愛する緑という色には「毒薬」の意味が隠されている。
この歌集には死のにおいが充満している。塚本が結核により死に瀕していた時期は過ぎたが、死をかたわらに置くことによって歌は極限の美を見せる。まさに負と負を掛ければ正に転じる強さが発揮されているのだ。
塚本はピカソ嫌いを明言している。嫌いつつ圧倒されるという。この歌にも横溢するピカソの生命感よ。