涼しい日だ。27℃くらいに収まる。
西に向き欅樹透し太陽にまむかふときぞわれのみにして
太陽と吾がむかいあふ。まぶしさに負けてはならず欅越しにて
いくつかの吸殻、砂場に落ちてゐる昨夜ここに謀反の企て
『孟子』公孫丑章句24-2 曰く、「管仲は其の君を以て覇たらしめ、晏子は其の君を以て顕れしむ。管仲・晏子は猶ほ為すに足らざるか」と。曰く、「斉を以て王たるは、由ほ手を反すがごときなり」と。曰く、「のくんば、則ち弟子の惑ひ甚だし。
且つ文王の徳、百年にしして後崩ずるを以てしてすら、猶ほ未だ天下にねからず。文王 周公之に継ぎ、然る後大いに行はる。今、王たるを言ふこと然し易きが若し。則ち文王はるに足らざるか」と。
孟子曰く、公孫丑よ今こそ王たること易し文王は法るに足らず
林和清『塚本邦雄の百首』
土曜日の父よ枇杷食ひハルーン・アラ・ラシッドのその濡るる口髭 (『緑色研究』)
塚本は果物が好きで名エッセイ集『味覺歳時記』(一九八四)には、果物にまつわる記憶や逸話がドラマ仕立てにつづられている。枇杷は出てこないが、歌のモチーフにはたびたび登場するので、好んでいたのだと思われる。
ハルーン・アル・ラシッドは『千夜一夜物語』に称えられる理想の王。こんな父を欲したと『綠珠玲瓏館』にある。「七歳の夏、掌も膝も濡らして枇杷を食ひながら、非在の父にあこがれた。そしてあるいは、私は一生父の出現を待ち續ける。」美学を超えて時おり顕現する真情に触れ、涙腺が決壊してしまうこともある。
ラ・マルセイエーズ心の國歌とし燐寸の横つ腹のかすりきず (『緑色研究』)
いったいこの歌集にはどれほどの固有名詞が登場するのか。サンセバスチャン、オルフェ、ストラヴィンスキー、カヤーム、ヒトラー、カラス……。人名に限らずこの歌のように曲名もある。
国家『君が代』に関して塚本は忸怩たる思いがあるようだ。「藺を刈りて遺髪のごとく炎天に竝べをり 國歌なき日本」という歌もあった。フランス国歌のような革命歌に憧れるのだろう。さらにマッチには「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」への共鳴がある。「横つ腹」の促音が効果的。