朝から暑い。35℃くらいになるという。八時半には冷房だ。
妻が買ふ小さき甘きトマト食ふ赤きしづくをしたたらせつつ
幽霊のやうに出てきてまた隠る人呪ふこと舌をだしつつ
闇にするこの声は猫が鳴く声か長く鳴きつつすがたは見えず
『中庸』第二章三 子曰く、「回(顔回・孔子の門人)の人と為りや、中庸を択び、一善を得れば、則ち拳拳服膺して、これを失はず」と。
子曰く、「天下国家も均しくすべきなり。爵禄も辞すべきなり。白刃も踏むべきなり。中庸は能くすべからざるなり」と。
顔回は中庸を択び身につくる然れども中庸はむずかしきもの
前川佐美雄『秀歌十二月』六月 北原白秋
昼ながら幽かに光る螢一つ孟宗の藪を出でて消えたり (歌集・雀の卵)
前の歌を作ってから二か月とたたないころの歌である。同じくたれが見てさえたちどころにわかるすぐれた歌で、また同じく感覚的、敏感にその情景をとらえているものの、それがあまり目立たないのはさすがである。目立ちすぎては情感を殺ぐ。あえていぶしをかけているように見えるのは用意あってのことなのだ。この時分の白秋の生活は貧の底をついている。そういう生活苦がそれとなく作用していないとはいわないまでも、白秋はあれで心づかいのまことにこまかい人だった。いつか物語るおりもあろうが、心にくきばかりそれがこの歌の中にも感じられる。文句なしにともに白秋壮年期の秀歌である。