曇り空が続くようだが、暑くなりそうだ。
冊子・本いく冊か重ね縛りたり紙ごみとして捨つるもやむなし
この中には捨ててはならぬ本があるされど仕方なし老いたればなほ
ゴロゴロと音立てて運ぶ冊子・本われを棄てたるごとき思ひに
『孟子』梁惠王章句上7-8 王甲兵を興し、士臣を危ふくし、怨を諸侯に構へ、然る後心に快きか」と。王曰く、「否。吾何ぞ是に快からん。将に以て吾が大いに欲する所を求めんとすればなり」と。曰く、「王の大いに欲する所、聞くを得可きか」と。王笑ひて言はず。曰く、「の口に足らざるが為か。の体に足らざるか。抑々の目に視るに足らざるが為か。声音の耳に聴くに足らざるか。の前に使令するに足らざるか。王の緒臣、皆以て之を供するに足れり。王是が為ならんや」と。曰く、「否。吾是が為ならざるなり」と。曰く、「然らば則ち王の大いに欲する所、知る可きのみ。土地を辟き秦楚を朝せしめ、中国にんで四夷を撫せんと欲するなり。き為す所を以て、若き欲する所を求むるは、猶ほ木に縁りて魚を求むるがごときなり」と。
王様の大望は領土に非ざるや木に縁りて魚を求むるがごとき
前川佐美雄『秀歌十二月』十月 石榑千亦
いたどりの林吹上ぐる海の風まともに吹きて馬つからすも (歌集・鷗)
北海道寿都での作である。いたどりは虎杖の字が当てられるが、宿根草で新芽は丈余にのびるから、それが群生していたのでは林をなすがごとくなるだろう。そういう未開拓の荒涼たる海岸を馬に乗って行くときの歌だ。「つからす」は他動詞で、疲れしむ、疲れさせるの意だが、この結句が非常によく利いていをる。荒い潮風に絶えまなく吹きつけられれ人馬もろともに疲れている。このとき自分のことをいわずに馬だけをいった。それがかえって旅情を深からしめた。夏たけた北海道をいやというほど思い感じさせる歌だ。これは大正十年刊行の第二歌集『鷗』に出ている歌だが、他に次のような佳作がある。
昆布の葉の広葉にのりてゆらゆらにとゆれかくゆれ揺らるる鷗
秋の日はいてりとほりて北の方オコツク海も油凪せり
沓形は海よりつづく磐の道夜道危し手火させ子ども
千亦は昭和十七年七十四歳でなくなるまで、一生を水難救助会のためにつくした。それゆえ全国を旅行、北海道だけでも三十数回に及ぶ。したがって海洋の歌が多く海の歌人と称せれる。(略)誠実、また任侠の人で多くの歌人が恩に浴した。古泉千樫、新井洸しかり、若き日の私もその一人ある。