ちょっと寝坊。晴れ。
あけぼの杉の茶褐色の葉散り落ちてさう遠からず裸木になる
裸になる冬のあけぼの杉を愛す日暮れも朝もひかり浴びつつ
冬の木のあけぼの杉を仰ぎをりなにも纏はぬ幹と枝のみ
『孟子』縢文公章句下56-2 湯始めて征する、葛自り載む。十一征して天下に敵無し。東面して征すれば、西夷怨み、南面して征すれば、北狄怨む。曰く、『奚為れぞ我を後にする』と。民の之を望むこと、大旱の雨を望むが如きなり。市に帰く者止まらず。芸る者変ぜず。其の君を誅し、其の民を弔ふ。時雨の降るが如し。民大いに悦ぶ。書に曰く、『我が后を徯つ。后来らば其れ罰無からん』と。
湯王の悦ばるること嬉しくて民は望めりその善政を
川本千栄『土屋文明の百首』
休暇となり帰らずに居る下宿部屋思はぬところに夕影のさす 『往還集』
<休暇となったが妻子の待つ家に帰省せず、一人暮らしの下宿部屋で過ごしている。夕方になると、部屋の思わぬところに思わぬ角度で光(=影)が射してくる。>
長野時代、文明は短歌よりも教育の仕事に打ち込んだ。しかし方針を認められず、不本意な転勤をきっかけに退職し、怒りと失望を感じていた。その後、関東大震災後の東京で大学予科の講師をしながら、一時期妻子と離れて暮らした。普段は働いている時刻、休日で家にいるので、いつもはきづかなかった夕影に気づく。細かい心の動きを描き、都市生活者の孤独と物憂い気分を歌う。
出勤時の舗道に落ち散りて人はみざらむ百合の樹の花 『往還集』
<百合の樹の高い所に花が咲いている。人々が出勤時に行き交う、舗装された街路にその花が落ちて散っているが、人は見ようともしないだろう。>
関東大震災は未曽有の災害であったが、それをきっかけに、街全体が急速に近代都市東京へと生まれ変わっていった。道路の舗装が最も進んだのもこの時期だ。初夏の都会の舗装路を人々は道に落ちた花などには目もくれずに歩いて行く。大都市の無機質な舗装路と、そこに散る花との対比が強調されている。