2025年3月15日(土)

今日は、今十度、午後三時ころ雨になるらしい。昨日、一昨日と打って変わって寒い。

  口臭か、それとも口から出る息か、体温ありき。われのものなり

  マスクの内に息すれば口臭きわれならむ老人の息嗅ぎたくもなし

  千歩ほど歩けば息も上がりたり吐く息つく息かくもはげしき

『論語』季氏八 孔子曰く、「君子に三畏あり。天命を畏れ、大人を畏れ、聖人の言を畏る。小人は天命を知らずして畏れず、大人に狎れ、聖人の言を侮る。」

  君子には天命、大人、聖人の言、この三つをば畏れありけり

『古事記歌謡』蓮田善明訳 八八 ソトホシノ皇女(軽大郎女の別名)
ソトホシノ皇女も、太子に歌を奉って、
夏草の (あひ)(ね)の浜の      夏草青く茂ってた 浜辺に忍んで寝たことが
(かき)(がひ)に 足踏ますな      二人の仲を裂きました 石に隠れた蠣貝に
明かして通れ         足を切ったりせぬように 道はよく見て行きなさい

  夏草の青く茂れる相寝の浜思ひでとして足切らぬよう

2025年3月14日(金)

春のおもむき。晴れている。

  中庭の底を覗けば赤き花、椿の常緑の中にぽつぽつ

  あけぼの杉はまだ冬木なりどことなく枝も頼りなくして

  百日紅のひねくれた幹もさらされて春とは名ばかり冬の木ならむ

『論語』季氏七 孔子曰く、「君子に三戒あり。少き時は血気未だ定まらず、これを戒むることに色に在り。其の壮なるに及んでは血気方に剛なり、これを戒むること闘に在り。其の老いたるに及んでは血気既に衰ふ、これを戒むること得に在り。」 

  君子には三つの戒め。若きは女色壮年は争ひ老年は欲

『古事記歌謡』蓮田善明訳 八七 カルノ太子
また、
(おほきみ)を 島に(はふ)らば        王であるこのわれを 島に流さばこの船の
(ふな)(あま)り い帰り来むぞ       帰りの時にまた乗って 都に帰ってきて見せる
わが畳ゆめ           わが敷きなれた畳をば ゆめ汚したりせぬように
(こと)をこそ 畳と言はめ       口こそ畳と言うけれど
わが妻はゆめ           ゆめゆめ許さぬ わが妻も

この歌は「夷振(ひなぶり)の片下ろし」である。

  王を島に流せばわが妻も畳のごとくゆめ許さざる

2025年3月13日(木)

今日は、暖かくなるらしい。久しぶりの太陽がある。

昨日「枯木のある風景」の感想を書いたが、講談社文芸文庫版・宇野浩二『思い川/

枯木のある風景/蔵の中』を読んだ。他の二編も、じつによかった。三十年に及ぶ小説家牧と芸妓三重との真の恋愛を描いて、滋味すら感ずる作品は当然ながら、宇野浩二の代表作であり、読売文学賞を受賞し、さらに出世作である『蔵の中』も奇妙な饒舌感があって圧倒された。

  欠片ほど貴重なものがあるものかかけら残して滅ぶるものか

  人の欠片を拾い蒐めて人があるわれも欠片の集積ならむ

  人のかけら、とりわけわれの欠片を宙めがけ投げて棄てたり

『論語』季氏六 孔子曰く、「君子に侍するに三愆あり。言未だこれに及ばずして言ふ、これを躁と謂ふ。言これに及びて言はざる、これを隠と謂ふ。未だ顔色を見ずして言ふ、これを瞽と謂ふ。」

君子に侍して三種のあやまち。まだいうべきでないのに言うのは「がさつ(躁)」、言うべきなのに言わないのは「隠す」、君子の顔つきも見ないで話すのを「盲(瞽)」という。

  君子に侍する時の注意を述べる孔子、弟子を信ずることなかりしか

『古事記歌謡』蓮田善明訳 八六  カルノ太子

カルノ太子は、伊予の温泉に流された。流された時の歌、
(あま)(と)ぶ 鳥も使ぞ         大空翔る鳥さえも 二人の使となりましょう
(たづ)(ね)の 聞えむ時は       鶴の鳴く音を聞いたらば
わが名問はさね          尋ねて下さい わたくしを

この三首(八四・八五・八六)は「天田振(あまだぶり)」である。

  天を飛ぶ鳥の鳴く音を聞く時は二人はここに居るとぞ思へ

2025年3月12日(水)

今、十一度だというが、寒い。

今日は、奈良東大寺二月堂のお水取りだという。春になるのだ。宇野浩二「枯木のある風景」は、画家の島木新吉と古泉圭造の敬愛と離反の小説だが、奈良に写生に出かける島木が、このお水取りの日に、それをほとんど意識しないことを書き、妙におもしろいのだ。

  ベランダを雨に飛ばない黒鶺鴒可愛く跳ぬる尻尾を振りて

  鶺鴒がベランダを右に左に跳ぬるやう冷たき雨が(み)を濡らしても

  この寒さを飛びだすときもありしかな(おほぞら)へちょっと散歩してくる

『論語』季氏五 孔子曰く、「益者三楽、損者三楽。礼楽を節せんことを楽しみ、人の善を道ふことを楽しみ、賢友多きを楽しむは、益なり。驕楽を楽しみ、佚遊を楽しみ、宴楽を楽しむは、損なり。」

  孔子曰ふ益者三楽、損者三楽。人間はさう截然と割り切れるものか

『古事記歌謡』蓮田善明訳 八五 キナシノカルノ太子
また、
天飛(あまだ)む 軽嬢子          軽のおとめよ 人陰に
したたにも 寄り寝て通れ     隠れ忍んで行きなさい
軽嬢子ども            涙が人に知れぬ様に

  天飛む軽のをとめよ人陰に隠れ忍びて行きなさい涙を人に知られぬやうに

2025年3月11日(火)

東北大震災の日から14年。いまだ遺骸の不明な人が2520人ほどいるらしい。

雲っていて寒い、夕刻には雨が降るという。

  早咲きのさくらの白き花開くかすかに花の匂ひただよふ

  マンションのパティオの隅に四本の早咲きざくら満開のとき

  わづかながら香りただよふ早咲きの白きさくらのも花散らしをり

『論語』季氏四 「孔子曰く、益者三友、損者三友。直きを友とし、(まこと)を友とし、多聞を友とするは、益なり。便癖(べんぺき)を友とし、善柔を友とし、便佞(べんねい)を友とするは、損なり。」

まあ、そうではあろうが、友だちを差別してはいないか。

  直きを友とし、諒を友とし、多聞を友とすこの三友は益なり

『古事記歌謡』蓮田善明訳 八四 キナシノカルノ太子

それでアナホノ皇子は軍を解いて退いた。オホマヘコマヘノ宿禰は、カルノ太子を捕え、連れてきてアナホノ皇子のもとに参った。太子は捕えられて歌った。 
天飛(あまだ)む 軽の嬢子(をとめ)        軽のおとめよ そのように
(いた)泣かば 人知りぬべし     君が泣く声高いゆえ 二人の仲を人が知る
(は)(さ)の山の 鳩の        波佐の山の鳩の様に
下泣きに泣く          声を立てずに泣きなさい

  天飛む軽の嬢子よ甚く泣けばその声高く人知りぬべし

2025年3月10日(月)

朝は寒いが、気温は少し上がるようだ。

1945年のこの日未明、東京大空襲。死者およそ10万。記憶しておくべき日だ。

  カップを三つわが目の前の卓に置き麦茶に紅茶、水を容れたり

  麦茶はミネラル・水は薬・紅茶はクッキーそれぞれに遇はせ

  夜ぞ遅くトイレに通ふ老いわれが卓に用意する麦茶いただく

『論語』季氏三 孔子曰く、「禄の公室を去ること五世なり。政の大夫に(およ)ぶこと四世なり。故に(か)三桓(さんかん)の子孫は(び)なり。」

魯では爵禄を与える権力が公室を離れてから五代(宣公・成公・襄公・昭公・定公)になるし、政治が大夫の手に移ってから四代(季武子・悼子・平子・桓子)になる。だからあの三桓(孟孫・叔孫・季孫)の子孫も衰えた。

  政の大夫の手に移り四代を経れば三桓の子孫も衰ふ

『古事記歌謡』蓮田善明訳 八三 オオマヘコマヘノ宿禰

するとオホマヘコマヘノ宿禰は、手を挙げ、膝を打ち、舞楽して歌いつつ、皇子のもとにやってきた。その歌は、
宮人の 足結(あゆひ)の小鈴        宮人たちがわが門に 騒いでいるのは足結の
落ちにきと 宮人とよむ      鈴が落ちたと騒ぐのだ
里人もゆめ            近くの里の人どもも 決して騒ぐに及ばない

  足結の小鈴落ちたり宮人の騒げど里の人よ騒ぐな

2025年3月9日(日)

朝は寒いものの、きのうより八度上がるそうだ。きのうは、ほんとに寒かった。

北方謙三『風樹の剣』、日向流五部作の一冊目である。この一冊で充分楽しめた。祖

父・日向将監、父・日向森之助、そして日向景一郎の物語。将監が死に、父を殺す旅に出る景一郎、いったい何人を殺すのであろうか。こんなふうに殺さなければ、生きていかれない時代、日々もあったのだろうか。それにしてもせつない。

  このコップ何に見えるか答へよと父に問はれし幼きわれなり

  松の幹に縛りつけられし幼きわれに悪を見出でし父にあらむか

  わが友らの前に立ちつつこの軍刀振り下ろしたる父がありにき

『論語』季氏二 孔子曰く、「天下道あれば、則ち礼楽征伐、天子より出ず。天下道なければ、則ち礼楽征伐、諸侯より出づれば、蓋し十世にして失わざること希なし。大夫より出づれば、五世にして失わざること希なし。陪臣国命を執れば、三世にして失わざること希なし。天下道あれば、則ち庶人は議せず。

  天の下に道ある時は平民はまつりごとの批判せざりき

『古事記歌謡』蓮田善明訳 八二 アナホノ皇子

アナホノ皇子はいよいよ軍兵を起こして、オホマヘヲマヘノ宿禰の家を囲んで、宿禰の門に至った時に、雹が盛んに降ってきた。それで歌った。
大前(おほまへ)小前(をまへ)宿禰が 金門(かなと)(かげ)      大前小前の宿禰らの 金門の陰に雨よけよ
かく寄り(こ)ね 雨立ちやめむ    雨もそのうちやむだろう

  大前小前の宿禰らの金門陰に雨よけよ雨もそのうちやむだらう