2024年12月7日(土)

快晴。朝は寒い。

  暗闇の机上に茶碗をひっくりかへすこぼれたる茶の領域ひろがる

  卓の上の茶を拭かんとし雑巾にティシュペーパーあわてるあわてる

  雑巾に茶をふき取りて雑巾のすこしく太るびしょぬれなれど

『論語』子路二九 孔子曰く「善人、民を教うること七年、亦以て戎に即かしむべし。」 後段の「戦争にいかせることができる」、つまり教化によってすすんでいのちをささげるようになる。これはどうなんだろう。当時、戦国の世であったとしても、孔子には言ってほしくない文言である。

  七年を教ふればすすんで戎に就きいのちをささげる兵隊になる

『春秋の花』 木原実
・『パンの略取』ひそかに持っていただけの思想犯の律儀さ

『象』21号(1995)所載「律儀な思想犯」17首のうち。……「思想犯は、いつでもおよそしかく「律儀」である。
・こなごなに砕けた富士 ひび割れた月がかたすみからのぞいている

  こなごなに富士を砕いてたのしきか衆議院五期つとめしものが

2024年12月6日(金)

朝は暗くて寒いが、日中は晴れて暖かい。

  西風に枯葉朽ち葉の吹かれをりカサリコソリト音頭を踊る

  一方に落葉吹かれて溜まるところ蹴散らして遊ぶ老いもゐにけり

  じゃり径の右手の小さな山茶花に赤、白ありて並ぶ木ありぬ

『論語』子路二八 子路問ひて曰く「如何なるをか斯れこれを士と謂ふべき。」孔子曰く「切切偲偲怡怡如たる、士と謂ふべし。朋友には切切偲偲、兄弟には怡怡如たり。」

  士人とは如何なるものか朋友に切切偲偲、兄弟には怡怡如たり

『春秋の花』 斎藤茂吉
・高ひかる日の母を恋ひ地の廻り廻り極り天新たなり 『赤光』(1913)所収。一九〇八年作「新年の歌」の一首。なかなか雄大な歌がら…
・わが船一つ空と海との中にありて地球の自転に逆らへるおもふ 五島茂
  *
・ほがらほがらのぼりし月の下びにはさ霧のうごく夜の最上川

  太陽をもなかに地球は回りをり地球は回る実感しがたし

2024年12月5日(木)

明けがた雲が多く寒かったが、やがて晴れて気温も上がってくるらしい。

  山茶花の花の白きが五弁にひらく冬の賜物この美しさ

  紅の花つけて山茶花ひらきたる少し古ければ花弁を散らす

  垣に添うて赤、白の花咲き並ぶ山茶花美し冬この季節

『論語』子路二七 孔子曰く「剛毅朴訥、仁に近し。」
端的でいい言葉である。そして、そのとおりだ。

  剛毅朴訥よき言葉なりかくあれば仁徳に近し疑ひもなく

『春秋の花』 太宰治
・一万五千円の学費つかって、学問して、さうして、おぼえたものは、ふたり、同じ烈しき片思ひのまま、やはりこのまま、わかれよ、といふ、味気ない理性、むざんの作法。 『二十世紀旗手』(1936)の断章。主人公の苦い「自嘲」がある。大学出の「自嘲」。大西巨人『神聖喜劇』第四部の断章、そこには主人公の烈々たる「他嘲」がある。
 *
「生活とは何ですか。」/「わびしさに堪へることです。」随想『かすかな声』

  一万五千円の学費を使っておぼえしは味気ない理性むざんの作法

2024年12月4日(水)

今日も朝は寒いが、晴れてくるようだ。

島尾敏雄・吉田満の対談『新編特攻体験と戦後』(中公文庫)。詳しくは本を読んでもらいたい。二人の特攻体験の違いと共通点が葛藤するように捩れ合って、実に奇妙な対談で、興味深いのだ。付録に付けられた橋川文三、吉本隆明、鶴見俊介の文章もどれも興味深い。

  池におよぐ鯉食ふこともなくなりて泥臭き身を喰はずてもよし

  赤白の鯉の泳ぐに餌をやるわが足もとに鯉があつまる

  集団になりたる鯉のおそろしさある鯉は全身を宙に踊らす

『論語』子路二六 孔子曰く「君子は(ゆたか)にして(おご)らず、小人は驕りて泰かならず。」

  孔子曰く君子は落ち着きいばらない対して小人いばっておちつかず

『春秋の花』 佐藤春夫
・顔はまっしろけで/こころは魔もの/抱かれ心地はこの上ないが/聞けば逢ふには命がけ  詩集『魔女』(1931)所収「俗謡『雪をんな』」掲出詩は、ずいぶん軽妙な出来栄えであり、なかなか魅力的な表出である。
 *
・さまよひくれば秋ぐさの/一つのこりて咲きにけり、/おもかげ見えてなつかしく/手折ればくるし、花ちりぬ。 詩『断章』

  外面如菩薩内心如夜叉若きをみなはみなかくのごとし

2024年12月3日(火)

朝は寒いが、以降は快晴、暖かい。

  おとろへて瑠璃の浄土をおもひをり心弱りかさうでもあるまい

  褐色の多く雑れるあけぼの杉じきに冬木に変る木の下に立つ

  (はちす)の弁のつらなる円形の(うてな)に坐す大日如来のきびしき表情

『論語』子路二五 孔子が言う「君子は事へ易くして説ばしめ難し。これを説ばしむるに道を以てせざれば、説ばざるなり。其の人を使うに及びては、これを器にす。小人は事へ難くして説ばしめ易し。これを説ばしむるに道を以てせずと雖ども、説ぶなり。其の人を使うに及びては、備はらんことを求む。」

  君子をば説ばしむること難し道以てこそよろこぶものを

『春秋の花』 斎藤史
・かそかなる心ほのめき粧へりぼたん雪ふり華やかなるも 『朱天』(1943)所収。

「雪の日における女性の内面の寂寥と外面の華やぎと。」
・ねむりの中にひとすぢあをきかなしみの水脈ありそこに降る夜のゆき

  雪のふる時少なきにふりだせば心はなやぐ、かなしみもあり

2024年12月2日(月)

晴れ。

『古事記』の現代語訳を読む(岩波現代文庫)。蓮田善明が訳したものだが、戦前国文学者としての活躍があり、招集されてマレー半島で敗戦を迎える。しかし、敗戦の責任を天皇に帰し、日本精神の壊滅を説く上官を射殺、自らも拳銃で自殺。ある意味「狂」を実現する。三島由紀夫の師のひとりであり、あの事件の誘いになった行為に危ないものを感ずる人もいるだろうが、この訳文は率直なものであり、詩歌の訳は俗っけもあって洒脱で楽しめる。いい訳本である。『古事記』を現代語訳で読むといったら、この一冊を薦める。

  軒近きところに見ゆる青空に淡き雲浮く夢のごとくに

  あけがたの雲多き空を見はるかすひむがしは闇いまだくらきに

  柊の小さき白き花あまた香る道まがり冬に入りゆく

『論語』子路二四 子貢問ひて曰く「郷人皆これを好みせば如何。」孔子曰く「未だ可ならざるなり。」「郷人皆これを悪まば如何。」孔子曰く「未だ可ならざるなり。郷人の善き者はこれを好し、其の善からざる者はこれを悪まんには如かざるなり。」

  郷人が皆これを好む、あるいは悪むいづれにしてもよからんものぞ

『春秋の花』 森鷗外
・僕にお金が話す時、「どうしても方角がしっかり分からなかったと云ふのが不思議ぢゃありませんか」と云ったが、僕は格別不思議にも思はない。聴くと云ふことは空間的感覚ではないからである。」 『心中』(1911)の断章。

〝『心中』は、鷗外作短編中の白眉であり、また近代日本短編中の屈指である。〟と私は独断している。
 *
・露おもき花のしづえに片袖をはらはれて入る庭のしをり戸

  しをり戸もいまでは見かけず両袖におもく降るかもさくら紅葉葉

2024年12月1日(日)

今日から12月だ。早いものである。後ひと月で2025年だ。

  師走一日曲り角には柊の白き花あり冬が近づく

  葉の先に刺のごときに鋸歯がある近づきがたし柊の垣

  鋸歯あれど柊白き花香るこの匂ひこそわがものなりき

『論語』子路二三 孔子曰ふ「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず。」

なるほどと思いつつ、こんなことばを思い出す。「連帯を求めて孤立を恐れず……」全共闘の落書で、かかわりはないのだが、共通したものがないだろうか。

  孔子、端的にのたまはく「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」と

『春秋の花』 失名氏
・行く年や遠きゆかりの墓を訪ふ

『読売新聞』一九三九年十二月某日号(?)「読売俳壇」第一席。選者は室生犀星か。作者名を私は覚えていない。九州福岡市因幡町の県立図書館閲覧室でたまたま読んだ。
・早春展墓おかめひょっとこ人殺し 金子兜太『早春展墓』(1974) 秀抜

掲出句の命題は、さしずめ「歳晩展墓」か。第二席は、これも失明氏、
・ゆく年の夜のあひ傘に日記買ふ

「あひ傘」の二人は新婚の若夫婦ならん。軽快な佳句であるが、掲出句の深いおもむきには、ずいぶん及ばない。
・まだなにもきかぬふりして毛糸編む
・世を忍ぶをんなすがたや花薄

  行く年や早春展墓とゆくものか父ひとりのみの墓に詣づる