今日は二十度に。しかし朝は寒い。
野口冨士男『わが荷風』読了。最初の単行本の時からこの文庫本になるまで三回読んでいるはずだが多くが記憶にない。最初の単行本の時は、この書物を案内役のようにしながら永井荷風の『あめりか物語』『ふらんす物語』をほじめ文庫になっていたほとんどの小説を読んだ。しかし大学生にとって手に負えるようなものではなかった。野口の案内記のような作品は、それを思い知らせてくれたのかもしれない。三度目の読書は、自分を確かめるためにも重要なものであった。
隠形の術にて姿を忍ばせてトイレにこもるわれならなく
トイレとの扉一枚隔てたる見えざる廊下を妻が歩く
扉の向かふを妻が往く老母が返る足を摺る音
『論語』陽貨一八 孔子曰く、「紫の朱を奪ふを悪む。鄭声の雅楽を乱るを悪む。利口の邦家えお覆すを悪む。」
間色である紫が、正色である赤を圧倒すのが憎い。鄭の国のみだらな音曲が、正統な雅楽を乱すのが憎い。口達者なものが、国家をひっくりかえすのが憎い。
朱に代り紫、正統な雅楽に代り淫らな音曲、邦を覆す口達者これらを憎む孔子なりけり
『古事記歌謡』蓮田善明訳 百九 志毘臣
志毘臣は、いよいよ怒って、
大君の 王子の柴垣 たたき破るこの方だ
八節結 結り廻し 八重の柴垣固めても ひとたびこうと思うたら
切れむ柴垣 焼けむ柴垣 切って火をつけ焼いてやる
こう歌って、争いかわして夜を明かし、おのおのに引き取られたのであった。
大君の王子の柴垣燃やしけむただに焼けたる切れむ柴垣