2025年4月14日(月)

昨夜は雨のようだったが、今朝からはしっかり晴れ。

  今朝も鳴く鳥の声する強き声これはひよどり甲高きこゑ

  命あはれせいいっぱいに花ひらく木蓮の白けふはいと愛し

  海棠の赤きも増えてぽつりぽつりさみどりの葉の繁れる中に

『論語』陽貨二四 子貢問ひて曰く、「悪むこと有りや。」孔子曰く、「人の悪を称する者を悪む。下に居て上を訕る者を悪む。勇にして礼なき者を悪む。果敢にして塞がる者を悪む。」孔子曰く、「賜(子貢)や亦た悪むこと有るや。」徼めて以て知と為す者を悪む。不孫にして以て勇と為す者を悪む。訐きて以て直と為す者を悪む。」

  孔子も子路も悪むことある。悪むことあまたあれども致し方なし

前川佐美雄『秀歌十二月』一月 西行法師

年たけて又こゆべしと思ひきやいのちなりけりさ夜の中山 (新古今集)

東大寺重源上人との約による、東大寺再建勧進の沙金を得るための大旅行。

西行が初めての東国下りしたのは二十六歳の時だったから、今回は四十年ぶりということになる。

数百数千言を費やしても如何ともいい尽くせない。千万無量の思いがこもっている。

2025年4月13日(日)

朝方曇りだったが、やがて雨。今日一日雨である。

松下龍之介『一次元の挿し木』読了。大学でのDNA鑑定と日本の企業、そして樹木の会という新興宗教が絡み合って、ミステリアスな展開、少女たちが美しい。なかなかに鬼気迫りながら、たちまちに読ませる。たのしい読み物であった。

  満開の木蘭をよそにザクロの木独自にくねり太き幹なり

  海棠も赤きを交えさみどりの色見せて春の訪れである

  冬の木も枝ごとの芽のみどり色あきらかにここに春の目覚め

『論語』陽貨二三 子路曰く、「君子、勇を尚ぶか。」孔子曰く、「君子、義以て上と為す。君子、勇ありて義なければ乱を為す。小人、勇ありて義なければ盗を為す。」

上に立つ者・下々の者。「君子・小人」はここでは在位者と被治者。

  勇ありて義もあればそれが君子なり勇ありて義なければ盗をなすのみ

前川佐美雄『秀歌十二月』一月 西行法師

はるかなる岩のはざまにひとりゐて人めおもはで物思はばや (新古今集・巻第十二)

ともあれはなはだ近代的な感じのする歌で、しずかだけれどその感情は強く端的に表現されていて、新古今集中恋歌の絶唱、これにおよぶものなしと断じたい。

2025年4月12日(土)

いい天気だ。途中から曇りになるそうだが、おおむね春らしい。

  自動(じ)販売機(はんき)の下に平たき西洋蒲公英ここにもことしの春が来てゐる

  木蓮の枝ごとにある花ひらく純白の花日にうつくしく

  いつのまにか暖かくなり春の気配小さき花のむらさきひらく

『論語』陽貨二二 孔子曰く、「飽くまで食らひて日を終え、心を用ふる所なし、難いかな。博奕(はくえき)なる者あらずや。これを為すは猶已むに(まさ)れり。

  なにもしないより博奕でもするほうがいい心用ふる

前川佐美雄『秀歌十二月』一月 大伴家持

あたらしき年の始めの初春の今日降る雪のいや()吉事(よごと) (万葉集巻二十・四五一六)

『万葉集』全二十巻の最後の歌である。

2025年4月11日(金)

あまり天気はよくなさそうだ。

  殻割りてつぼみの白きものひかる木蘭の花もうすぐに咲く

  ゑんじゅの冬の枝にきてそれぞれに枝揺らす目白三羽が

  冬の木を揺らして黒鶺鴒お尻重たく次の木に移る

『論語』陽貨二一 「(さい)(が)問ふ、三年の喪は期にして已に久し。君子三年礼を為さずんば、礼必ずや(やぶ)れん。三年楽を為さずんば、楽必ず崩れん。旧穀既に(つ)きて新穀既に(みの)る、(すい)(き)りて火を改む。期にして已むべし。」

孔子曰く、「夫の稲を食らひ、夫の錦を衣る、(なんじ)に於いて安きか。」曰く、「安し。」「女安くんば則ちこれを為せ。夫れ君子の喪に居る、旨きを食らふも甘からず、楽を聞くも楽しからず、居処安からず、故に為さざるなり。今女安くんば則ちこれを為せ。宰我出ず。

孔子曰く、「予(宰我)の不仁なるや。子生れて三年、然る後に父母の懐を免る。夫れ三年の喪は(それを考え合わせてさだめたもので)天下の通喪なり。予(宰ガ)や、其の父母に三年の愛あらんか。」

  三年の喪はそれなりに意味がある勝手のかえるは不仁にやあらむ

蓮田善明訳『古事記歌謡』は、前の日に終えた。蓮田善明の訳は、俗っぽくもあるが、なるほどと思わせ、おもしろくもあった。上官の敗戦後の物言いが許せず、上官を撃ち殺し、自裁しというのも、彼の倫理であった。私は、それを已むを得ぬものと肯定する。

今日からは、前川佐美雄『秀歌十二月』から歌を載せていく予定だ。すこし季節は外れるが一月からはじめる。

大伴家持

初春の初子(はつね)の今日の(たま)(ははき)手に(と)るからにゆらぐ玉の緒 (万葉集巻二十・四四九三)

初春のめでたい初子の日に際して今日賜った玉箒はちょっと手に取ってみただけでも、もうその玉の緒がゆれて何ともいえずすがすがしい気持だ。

2025年4月10日(木)

曇りだけど、気温は上がっているようだ。

  走る走る孫の(を)の子がひた走るその姿老いには少し重たし

  孫が走る映像を見てよろこべるわが妻の声ただ笑ひをり

  走り蝶追ふ男の子なり下総の春によろこびをらむ

『論語』陽貨二〇 孺悲(じゆひ)(哀公の命をうえて、孔子から士の喪礼を学んだとある魯の人物)、孔子に(まみ)えんと欲す。孔子辞するに(やまい)を以てす。(めい)(おこな)ふ者、戸を(い)ず。(しつ)を取りて歌い、これをして聞かしむ。

仮病だと知らせて孺悲の反省をうながした。

  禱悲なる者孔子に会はんと来たりしが疾と偽り瑟を聞かしむ

『古事記歌謡』蓮田善明訳 百一一 顕宗天皇

そのうちに、ある日、置目老媼は参上して、「わたくしは、いたく年をとっておりますので、」おいとまをいただきまして、故郷に下がろうとぞんじます。」と申し上げた。そこで、言うままにお下げになる時、天皇はお見送りになって、
歌い給うには、
置目もや (あふ)(み)の置目        近江の置目よ さようなら
明日よりは み山(がく)りて     これで別れてしまったら 明日から山に隔てられ
見えずかもあらむ          そなたの姿も見られぬか

  淡海の置目老媼明日からは山を隔てて見るもかなはず

2025年4月9日(水)

快晴、あったかいようだ。

岡本綺堂『旅情夢譚』を読む。どの話も、どこか不思議で、百物語を思わせ興味深いのだが、いささか無気味度が薄いかな。でも、おもしろかった。

少し前のことだが、

  真みなみに薄き半円の残り月われまだこの世に未練ありにき

  少しづつ動く半円の残り月はかなきものはあの世のものか

  これの世の行く末いかに。この頃は滅びの後も戦乱の果て

『論語』陽貨一九 孔子曰く、「予れ言ふこと無からんと欲す。」子貢が曰く、「子如し言はずんば、則ち小子何をか述べん。孔子曰く、「天何をか言ふや。四時、行なはれ、百物、生ず。天何をか言ふや。」

孔子先生は、もう何も言うまいと思うと言った。子貢が「先生が何も言わなけれ、門人に何を受けつたえましょうか。どうかお話をして下さい」というと、先生は言われた、「天は何か言うだろうか。四季はめぐっているし、万物も生長している。天は何か言うだろうか。何も言わなくとも、教えはある。ことばだけを頼りにしてはいけない。

  われ言ふこと無し季節はめぐり万物生長すあえて天にはことばあらず

『古事記歌謡』蓮田善明訳 百一〇 ヲケノイハスワケノ命

その老婆の住む家を、皇居の近くに作り、毎日必ずお召し寄せになるのであったが、それには、御殿の戸に大鈴をかけて、老婆をお召しになりたい折りは、その大鈴を引き鳴らすということを定めてあった。それによって歌がある。
浅茅(あさぢ)(はら) 小谷(をだに)を過ぎて      浅茅の原や谷過ぎて
(もも)(づた)ふ (ぬて)ゆらぐも       はるばる伝うて鈴が鳴る
置目(おきめ)(く)らしも          置目がどうやら来たようだ

  大鈴が鳴れば宮近き住まいより置目老婆ここに来らしも

2025年4月8日(火)

今日は二十度に。しかし朝は寒い。

野口冨士男『わが荷風』読了。最初の単行本の時からこの文庫本になるまで三回読んでいるはずだが多くが記憶にない。最初の単行本の時は、この書物を案内役のようにしながら永井荷風の『あめりか物語』『ふらんす物語』をほじめ文庫になっていたほとんどの小説を読んだ。しかし大学生にとって手に負えるようなものではなかった。野口の案内記のような作品は、それを思い知らせてくれたのかもしれない。三度目の読書は、自分を確かめるためにも重要なものであった。

  隠形の術にて姿を忍ばせてトイレにこもるわれならなく

  トイレとの扉一枚隔てたる見えざる廊下を妻が歩く

  扉の向かふを妻が往く老母が返る足を摺る音

『論語』陽貨一八 孔子曰く、「紫の朱を奪ふを(んく)む。鄭声の雅楽を乱るを悪む。利口の邦家えお覆すを悪む。」

間色である紫が、正色である赤を圧倒すのが憎い。鄭の国のみだらな音曲が、正統な雅楽を乱すのが憎い。口達者なものが、国家をひっくりかえすのが憎い。

朱に代り紫、正統な雅楽に代り淫らな音曲、邦を覆す口達者これらを憎む孔子なりけり

『古事記歌謡』蓮田善明訳 百九 志毘臣
志毘臣は、いよいよ怒って、
大君の 王子(みこ)の柴垣       たたき破るこの方だ
八節結(やふじまり) (しま)(もとほ)し        八重の柴垣固めても ひとたびこうと思うたら
切れむ柴垣 焼けむ柴垣     切って火をつけ焼いてやる

こう歌って、争いかわして夜を明かし、おのおのに引き取られたのであった。

  大君の王子の柴垣燃やしけむただに焼けたる切れむ柴垣