2025年2月4日(月)

今日も寒いが晴れている。

内海健『金閣を焼かねばならぬ 林養賢と三島由紀夫』を読む。著者は、私より一つ上の精神科医である。それゆえに今で言えば「統合失調症」が「分裂症」として中心的に論じられる。金閣を実際に焼いた林養賢と、それを溝口に仮託して『金閣寺』を書いた三島由紀夫。「金閣をやかねばならぬ」という衝動を描いて両者を重ね合わせる。圧倒的な精神医としての見解、その迫力は、読者の亢ぶりは際限ない。よい読書であった。

  金閣が燃やされたのも当然と思ひし中学生われが居たりき

  わたくしもどこか偏頗な思ひありて金閣を燃やす青年を肯ふ

  あたらしくなりたる金閣を一度見しこの偽物と唾棄したりけり

『論語』衞靈公一一 顔淵、邦を(おさ)めんことを問ふ。孔子曰く、「夏の時を行ないひ、殷の輅に乗り、周の冕を服し、楽は則ち韶舞し、鄭声を放ちて佞人を遠ざけよ。鄭声は淫に、佞人は殆ふし。」

夏の暦―季節の春のはじめとして農事に便利。殷の輅の車―木製で質素堅牢。周の冕の冠―上に板がついて前後にふさのたれた冠。儀礼用として立派。音楽は舜の韶の舞い。鄭の音曲をやめ口上手なものを退ける。鄭の音曲は淫ら、佞人は危険だ。

  邦を治めるには夏の暦、殷の(ろ)の車、(べん)の冠、音楽は舜の(しょう)(ぶ)

『古事記歌謡』蓮田善明訳 四八 吉野の国栖人ら

吉野の国栖人らが、オホササギノ命の佩いている刀を見て歌う。
品陀(ほむだ)の 日の御子大雀(おほささぎ)       品陀の日の御子大雀
大雀 佩かせる大刀        大雀命の佩き給う
本剣(もとつるぎ) 末振(すゑふ)ゆ           諸刃の剣の切先は
冬木(の)す (か)らが下樹(したき)の     たとえば葉もない冬の木に 霜の真白く凍るよう
さやさや             きらきらきらり冴えている

  品陀の日の御子大雀佩かせる太刀のきらきらきらりかがやいてゐ

2025年2月3日(月) 立春

暦の上では春になるのだが、寒い、曇り。えらく寒い。

  書店にて有栖川有栖『砂男』、ジャニス・ハレット『アルパートンの天使たち』

  そして梅崎春生『十一郎会事件』、最後に新刊・奥泉光『虚傳集』を買ふ

  いつになれば読み終へるのかハン・ガン『別れを告げない』四・三事件

『論語』衞靈公一〇 子貢、仁を為さんことを問ふ。孔子曰く、「工、其の事を善くせんと欲すれば、必ず先づ其の器を利くす。是の邦に居りては、其の大夫の賢者の事へ、其の士の仁者を友とす。」

  その邦の仁ある人にまづ仕へそこの士人の徳あるを友とす

『古事記歌謡』蓮田善明訳 四七 仁徳天皇
道の後 古波陀嬢子は      はるばる召されてやってきた
争はず 寝しくをしぞも     おとめはわたしの恋を容れ
(うるはしみ)しみ思ふ          争わず寝るいとおしさ

  はるばると召されしをとめはわが恋容れてたがひに愛するらしも

2025年2月2日(日) 豆まき

雪かもといわれていたが、重たい雨だ。

  相模の國國分寺跡の枯芝に白梅の古木花匂はする

  國分寺七重塔の礎石のうへ昔の國司のごとくに國見したりき

  さくら木も幾本かある枯芝のひろがり春になればはなやぐ

『論語』衞靈公九 孔子曰く、「志士仁人は、生を求めて仁を害すること無し。身を殺して以て仁を成すこと有り。」

  志士仁人は仁を害することあらず命をすてても仁なし遂ぐる

『古事記歌謡』蓮田善明 四六 オホササギノ命(仁徳天皇)
カミナガヒメを賜ってから、太子が歌った歌、

道の(しり) 古波陀(こはだ)嬢子(をとめ)を         遠いはるかの国にいて
雷神(かみ)のごと 聞えしかども       名のみ響きしおとめ子と
(あひ)(まくら)(ま)く               枕かわして寝ることよ

  日向にて名のみとどろくをとめ子と枕かわして相寝ることよ

2025年2月1日(土)

晴れてます。

大島和子『回想 鈴木邦男 日本会議と三島事件ストーリー』を読む。いわゆる「新右翼」の鈴木邦男に近くにいた女性による回想である。うん?と思うところもあるにはあるが、鈴木を敬愛する者の一途さがある。鈴木が森田必勝と三島由紀夫が死んだあの事件についてどう考えていたか。そして日本会議を否定的に見ていたことなどなるほどと思わせる。鈴木邦男とはあったこともないが、おそらく近傍にいた時期もあり、書くものを通じて多くを学んだからか、親しみを感ずることは多いし、その死が残念でならない。

  三島、森田が切腹・介錯に死にたるはわれ中学二年のことなり

  新右翼の近傍をさまよふ高校時代まだ純粋なる右翼少年

  岸上大作の生と死を考へはじめたる大学一年左傾してゆく

『論語』衞靈公八 孔子曰く、「与に言ふべくしてこれと言はざれば、人を失ふ。与に言ふべからずしてこれと言へば、言を失ふ。知者は人を失はず、亦た言を失はず。」

  知者なれば人を失ふこともなく言葉を失ふこともなからむ

『古事記歌謡』蓮田善明訳 四五 応神天皇
水溜る 依網(よさみ)の池の        依網の池の堰杙(せきぐい)
堰杙(ゐぐひ)打ち             打ちにはいれば菱殻の
(ひし)(から)の 刺しけく知らに      刺すも知らずに (ぬなわ)(な)
(ぬなは)(く)り (は)へけく知らに      張った(つる)(ね)にかかるのも
わが心しぞ いや(をこ)にして     知らないでいた愚かさよ
今ぞ悔しき          ひそかに隠れておとめ子を (おも)皇子(こども)もいたものを

このように歌って、カミナガヒメをオホササギノ命に賜った。

  ひそかに隠れてをとめ子を恋するわれの息子もをりし

2025年1月31日(金)

晴れ、しかし寒い。

  アメリカの大統領の代替はりトランプの顔好みにあらず

  アメリカもロシアも中国も北朝鮮も独裁なるか

  アメリカは民主の邦なりトランプの為すことそれに叶ひたるかな

『論語』衞靈公七 孔子曰く、「直なるかな史魚(衛の大夫、(し)(しゆう))。邦に道あるにも矢の如く、邦に道なきにも矢の如し。君子なるかな(きょ)(はく)(ぎょく)(史魚に推薦された衞の大夫)。邦に道あれば則ち仕へ、邦に道なければ則ち巻きてこれを懐にすべし。

  蘧伯玉、君子なるかな道なければ則ちくるみて隠す

『古事記歌謡』蓮田善明訳 四四 応神天皇
日向の諸県君の娘カミナガヒメを太子オホササギノ命のものとされた時に、天皇が歌った。
いざ子ども 野蒜(のびる)摘みに     さあさ 子どもよ 蒜摘みに
蒜摘みに わが行く道の     わが行く道にかおりおる
香ぐはし 花橘は        花橘の上枝は
上枝(ほつえ)は 鳥居枯らし       鳥が散らして 下枝は
下枝(しづえ)は 人取り枯らし      人が散らして 栗の実の
(みつ)(ぐり)の 中つ枝の        三つが中の中枝の
ほつもり 赤ら嬢子(をとめ)の      葉蔭に赤く熟れそめた 色香におえるおとめ子の
いざささば 良らしな      さあさ誘うてよかろうぞ

  中つ枝の葉蔭に赤く熟れてゐるをとめ子はささば誘ふてよかろうぞ

2025年1月28日(火)

今日も寒いが、晴れ。

『工藤會事件』を読む。著者の村山治は、元新聞記者らしく期待して読んだのだが、当時の北九州の社会状況や暴力団、検察・警察の動きはよく分かるものの、どこか記録を読んでいるようで、逆に最後の10章、文庫本になるに当たって加えられた11章の「抱僕」の活動がより人間的であり興味深いものに思えてくる。しかし、日本一凶暴であった工藤會を壊滅に追い込むまでを書いたドキュメンタリーはそれなりだ。

  暗黒をゴミの廃棄に行く者を城砦の上に見てゐるわたし

  いまだ闇きに歩みゆく者あちこちにある街路灯に照り

  わたくしが両手にぶら提げプラゴミの袋を二つ廃棄したりき

『論語』衞靈公四 孔子曰く、「由(子路)よ、徳を知る者は(すく)なし。」

  これの世に徳を知る者すくなくて子路とわれとがいま言えるもの

『古事記歌謡』蓮田善明訳 四一 タケウチノ宿禰ノ命 太子に代わって、
この御酒(みき)を (か)みけむ人は     この御酒つくったその方は
その鼓 臼に立てて        鼓を(かも)(し)の臼として
歌ひつつ 醸みけれかも      歌いながらにつくったか
舞ひつつ 醸みけれかも      踊りながらにつくったか
この御酒の            この御酒のめばそのために
あやに(うた)(たぬ)し ささ        無性に楽しくなってくる さあさ(ほ)しましょ神の御酒

  この神酒を作った人は歌いつつ踊りつつ醸す飲めばたのしき

2025年1月27日(月)

いつまでも三日月のような月が残り、寒い。

鳥三態

  ひよどりのつがひうるさく鳴き交はし枝から枝を移りゆくなり

  低き木から電線に飛ぶ寒雀ふっくらふくれうまさうに見ゆ

  朝けからからすは何鳴くかあおと呼ぶは仲間か知れず

『論語』衞靈公三 孔子曰く、「(し)や、(なんじ)(わ)れを以て多く学びてこれを識る者と為すか。」賜対へて曰く、「然り、非なるか。」孔子曰く、「非なり。(わよ)れは一これを貫く。」

今一つ分かりにくいが、あれこれのもの識りよりも、「一」を貫くことの方が大事だということか。

  多くを学び知者となるより一以てこれを貫くことこそ肝要

『古事記歌謡』蓮田善明訳 四〇 神功皇后
この御酒(みき)は わが御酒ならず  太子(みこ)に捧げるこの御酒は 

わたしの造った御酒でなく
(くし)の神 常世に坐す      常世の国に永久(とこしえ)
(いは)立たす 少名(すくなな)御神(みかみ)の     坐す少名の酒神の
神寿(かむほぎ)ぎ 寿ぎ狂ほし      祝いて狂うて酒つくり
(とよ)寿(ほ)ぎ 寿ぎ(もとほ)し       祝い廻って酒つくり
(まつ)り来し 御酒ぞ       (まつ)り持て来た神の酒
(あ)さず(を)せ ささ       重ね(ほ)せ乾せ神の酒

  この御酒は少名御神の神寿ぎ豊寿ぎ献り来し神の酒なり(あ)さず飲め、さあ