2024年10月24日(木)

朝から晴れていい天気だ。ただ少し暑い。

  マスクかけて妖しき風体のわれならむ余儀なくトイレの前に倒れき

  手品師の集団のやうに倒れたるものを囲みて守らむとする

  この日より点滴棒と看護師に付き添はれゆく夜のトイレに

『論語』顔淵一五 孔子が言う。「(ひろ)く文を学びて、これを約するに礼を以てせば、亦以て(そむ)かざるべきか。」

  書物を読み礼の実践にてひきしめれば道にそむかずと孔子のたまふ

『春秋の花』 島木赤彦
・一本の蠟燭の灯に顔よせて語るは寂し生きのこりつる 『太虚集』1923
 「関東震災」二十四首中の一首。
    ↓
・この夜半に生き残りたる数さぐる怪しき風の人間を吹く 与謝野晶子『瑠璃光』

「これらは『天災』に数えられる。広島に投下せられた核兵器は、『人災』であった。そしてそれは、二十四万七千の人命を束の間に奪い去ったのである。」

・空澄みて寒き一と日やみづうみの氷の裂くる音ひびくなり

  人災は人災としてアメリカに抗議すべきをおこたる日本

2024年10月23日(水)

朝は涼しい。昼もまあまあ。

  これの世はかくもいつもの俗つぽさ自民党総裁選など行はれしか

  熱下がらず悶々とベッドの上に棲むこここそがわれの病牀六尺

  正岡子規の歌に心を直くして季節を越えて生きてゐたし

『論語』顔淵一四 子張、政を問ふ。孔子が言う。「これに居りては倦むこと無く、これを行なふには忠を以てす。」

  そこにゐて倦むことはなくただ忠をこころがけたることぞよきなり

『春秋の花』 石川啄木
・われはこの国の女を好まず//読みさしの舶来の本の/手ざはりあらき紙の上に/
 あやまちて零したる葡萄酒の/なかなか浸みてゆかぬかなしみ//われはこの国の女を好まず

『啄木遺稿』(1913)所収『呼子と口笛』中の一篇「書斎の午後」
・ふがひなき/わが日の本の女等を/秋雨の夜にののしりしかな『一握の砂』1910

「おそらく啄木は、「この国(の女)」を真に愛することにおいて決して人後に落ちなかったのであろう。」

・地図の上朝鮮国にくろぐろと墨をぬりつつ秋の風を聴く

  この国の女を好まずと言ひながらこの国の女を愛する啄木

2024年10月22日(火)

涼しい。秋らしい日だ。

  掛けてゐたメガネを無くし高熱に魘されたるかわれわれにはあらず

  やうやつとメガネ取り返すわれならむオムツに尿をもらす老い耄れ

  隠形にならひてひそむベッドの下いづれは外の明るき世界へ

『論語』顔淵一三 孔子が言った。「訟えを聴くは、吾れ猶人のごときなり。必ずや訟え無からしめんか。

  訟えを聴くことあらむ訴えの無きがよきなりと孔子のたまふ

『春秋の花』 金子兜太
・どれも口美し晩夏のジャズ一団 『蜿蜿』(1968年)

晩夏が来ると、
・ふるさとの蔵の白かべに鳴きそめし蟬も身に沁む晩夏のひかり 茂吉『あらたま』
・ひととゐて落暉栄あり避暑期去る 石田波響『鶴の眼』(1939)
・女子学生相寄り咆哮する晩夏 金子兜太 『皆之』(1986)
・沖へ歩け晩夏の浜の黒洋傘 西東三鬼 『変身』(1962)

・河に青葉が一つ落ちたよ春来たる 金子兜太

2024年10月21日(月)

秋の良い日である。

  発つ時に百済観音すくと立つ娘のすがたおぼろけならむ

  わがね眠る傍に添ひ椅子に座す妻端然たりすぐまた意識なし

  いつのまにかオムツに換へられ点滴に繋がれてまた病人ならむ

  歯ブラシをコップに入れてベッドの上身動きならず含嗽してゐる

『論語』顔淵一二 孔子が言った。片言以て(うつた)へを(さだ)むべき者は、其れ(ゆう)なるか。子路(由)、諾を宿(とど)むること無し。

  孔子の弟子の中でも子路は優れたり片言をもち訴へを定む

『春秋の花』山本常朝

「一生忍びて思ひ死することこそ、恋の本意なれ。」『葉隠』(1716?)
   ↓
「なんじ施しをするとき右の手の成すことを左の手に知らする勿れ。」『マタイ伝』
   ↓
岡本かの子『金魚繚乱』(1937)

「文庫より書物を出だし給ふ。明候へば丁字の香いたし候也。」

  丁字の香。強き香りを匂はせてここは往にし世いつか変ぜし

2024年10月20日(日)

昨日はかなり暑かったけれど、今日は涼しいというか寒い。

  高熱に意識失ふわれなれどめぐり阻むオレンジの服

  オレンジの救急隊員にはげまされ名を問はれても応へ得ざりき

『論語』顔淵一一 斉の景公、政を孔子に問ふ。孔子対へ曰はく、君 君たり、臣 臣たり、父 父たり、子 子たり。公の曰はく、善きかな。信に如し君 君たらず、臣 臣たらず、父 父たらず、子 子たらずんば、粟ありと雖ども、吾れ豈に得て諸れを食らはんや。

  斉の景公、孔子に問ふに応へたまふしかるに孔子の本意分からず

『春秋の花』安住敦

てんと蟲一兵われの死なざりし

安住敦(1907~1988)。句集『古歴』(1954)所収。「八月十五日終戦」という前書き付けられている。

中村草田男「切株に踞し蘖に涙濺ぐ」(『来し方行方』1947年)

金子兜太「スコールの雲かの星を隠せしまま」(『少年』1955年)

大西巨人「秋四年いくさに死なず還りきて再びはする生活(いき)の嘆きを」

斎藤史「夏の焦土の焼けてただれし臭さへ知りたる人も過ぎてゆきつつ」

「いま敗戦五十年目の夏が来た。私は、万感胸に迫る。」

  八月十五日が来るたびに戦争に征き死なざるものたち