6月24日(水)

一日曇りらしいが、今は明るい。

谷崎潤一郎『幼少時代』を読む。後からの回想とはいえ細かい、繊細、微細、よくこんなことまで覚えているな、と感心・関心。淡々と事実を記しているのだろうが、稲葉清吉先生の文学教育。先生の欧文・漢文・古典などの教養の豊富なこと、谷崎も谷崎らしく、こんな子どもの時代からと思わせる。ちょっと恐ろしい、びっくりするほどの記憶・回想である。

  夕暮れになれば目の玉おぼろにて点眼薬落とす百発百中

  点眼を始めし頃はへたくそで目の周囲濡れて涙せりけり

  だんだんに目薬さすもうまくなり涙にならず目玉にをさまる

『孟子』告子章句下175 孟子曰く、「舜は(けん)(ぽ)の中より(おこ)り、傳説(ふえつ)版築(はんちく)の間より挙げられ、膠鬲(かうかく)魚塩(ぎよえん)の中より挙げられ、(くわん)(い)(ご)は士より挙げられ、孫叔敖(そんしゆくごう)は海より挙げられ、百里奚(ひやくりけい)は市より挙げらる。故に天の将に大任(たいにん)を是の人に降さんとするや、必ず先づ其の(しん)(し)を苦しめ、其の筋骨を労せしめ、其の(たい)(ふ)を餓ゑしめ、其の身を空乏(くうばふ)にし、行ふこと其の為さんとする所に(ふつ)(らん)にせしむ。心を動かし性を忍ばせ、其の能くせざる所を(ぞう)(えき)せしむる所以なり。人恒に誤ちて、然る後に能く改め、心に(くるし)み、(おもんぱかり)(よこた)はつて、而る後に(おこ)り、色に(あらは)れ、声に発して、而る後に(さと)る。入りては則ち法家払士(ほふかひつし)無く、出でては則ち敵国外患無き者は、国恒に亡ぶ。然る後に、憂患(いうかん)に生じて、安楽に死することを知るなり」

  憂患有りてこそ生き抜き安楽にすれば死亡するなり

    *

『梁塵秘抄』植木朝子編訳

われは思ひ人は退(の)け引くこれやこの 波高(なみたか)荒磯(あらいそ)の (あはび)の貝の片思ひなる
                        (二句神歌・四六三)

【現代語訳】私はあの人を思い、あの人は私から離れていく。これがまあ、あの波の高い荒磯にすむ鮑の貝の片思いというものなのか。

【評】鮑に寄せた片思いの歌。鮑の殻は、一見すると二枚貝の片側だけに見えるところから、片思いに通じるものとして歌われた。よく知られているのは、『万葉集』巻一一の、

伊勢の海人(あま)の朝な夕なに(かづ)くといふ鮑の貝の片思(かたもひ)にして (二七九八)
(伊勢の海人が朝に夕に潜って取るという鮑の貝のように、私は片思いのままで)

であろう。これは平安時代の私撰集『古今和歌六帖』にもとられており、『梁塵秘抄』には、伊勢の海に朝な夕なに海人のゐて 取り上ぐなる 鮑の貝の片思ひなる (四六二)

と少し手を加えたものが収められている。四六三番歌は四六二番歌と結句を同じくするが、「われは思ひ人は退け引く」という直截的で強い調子や「これやこの」といった強調表現によって、だいぶ趣の異なる激しさを持った一首になっている。『梁塵秘抄』には「わが身やつれて男退け引く」(四〇九)の例があるが、あるいは衰貌によって、あるいは激しい情念のために男に去られる女のやりきれなさが、「退け引く」の語から惻惻と迫ってくる。

「波高や荒磯の」は波の高い荒磯(岩の露頭した海岸)の意で、蚫の生息する場所を示すが、「恋を妨げるものというイメージが伴う」とも、「劇しい心情の動きを捉える」とも考えられる。

室町時代末期の流行歌謡・小歌にも、何となる身の果てやらん しほに寄り候片し貝
    (『閑吟集』)
(これからどうなっていく私の身だろう。あの人の愛嬌にひかれて片思いをする私は、潮に弄ばれる片貝のようなもの)   

のように、片し貝(二枚貝の一片)に寄せて片思いを歌ったものがあるが、小歌は、「しほ」に愛嬌の意と海の潮とを掛け、「なる身」に歌枕の「鳴海」を掛けた言葉遊びの色合いが濃く、洒落た軽やかなものになっている。当該今様の強さ、激しさとは好対照をなしていると言えよう。

偏屈房主人
もともと偏屈ではありましたが、年を取るにつれていっそう偏屈の度が増したようで、新聞をひらいては腹を立て、テレビニュースを観ては憮然とし、スマートフォンのネットニュースにあきれかえる。だからといって何をするでもなくひとりぶつぶつ言うだけなのですが、これではただの偏屈じじいではないか。このコロナ禍時代にすることはないかと考えていたところ、まあ高邁なことができるわけもない。私には短歌しかなかったことにいまさらながら気づき、日付をもった短歌を作ってはどうだろうかと思いつきました。しばらくは二週間に一度くらいのペースで公開していこうと思っています。お読みいただければ幸い。お笑いくださればまたいっそうの喜びです。 2021年きさらぎ吉日

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